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研究内容

哺乳動物スフィンゴ糖脂質GM3合成酵素に付加するアスパラギン結合型糖鎖の働き

 GM3合成はゴルジ体でシアル酸転移酵素であるGM3合成酵素(GM3S、St3gal5(-V)、SAT-I)によって行われる。GM3Sは2型の膜タンパク質であり、短めの細胞質領域とシアル酸転移酵素に保存されたシアリルモチーフL、S、VSを含む大きな内腔側ドメインを持つことがわかっている。また、GM3Sは糖タンパク質でもあり、マウスは3箇所のアスパラギン(N)結合型糖鎖付加配列 NXSまたはNST(XはPro(P)以外の任意のアミノ酸)を持つ。実際にこの3箇所(N180N224N334)にはN結合型糖鎖が付加し、それぞれの糖鎖が付加されなくなるN180Q、N224Q、N334Q変異体(Nを構造の近いグルタミン(Q)に置換した変異体)ではGM3合成活性が著しく低下した。つまり、糖鎖が酵素活性に必須であることが示された。

 この時に興味深く思ったのは、ヒトGM3Sのアミノ酸配列では224番目のアスパラギン(N224)はリシン(K224)であり、この部位に糖鎖付加は起こらないことである。それ以外の生物種でアミノ酸配列を比較すると、特に魚類では同様にN224に相当する箇所がリシンやアルギニンといった塩基性アミノ酸に変わっており、さらにN180に相当する箇所(NKT)は「SKT」、N334に相当する箇所(NVT)は「NVQ」など、糖鎖の付加しない独自の配列になっていた。これらの結果から、もしN結合型糖鎖がGM3Sの立体構造の一部を担っているならば、その構造と同じようになるアミノ酸配列であれば、糖鎖がなくても酵素活性は維持されるのではないかと考えた。そこで、マウスGM3Sに各糖鎖付加部位の配列について、以下のように変えた変異体を作製して、酵素活性を測定した。   

 

 (1) 177-HVGNKT-182 → 177-DVGSKT-182

 (2) 224-NET-226 → 224-KET-226

 (3) 334-NVT-336 → 334-NVQ-336

その結果、全ての変異体で野生型と同程度の活性が認められた。さらに、この糖鎖がなくても酵素活性の維持される変異を全て導入したGM3S変異体は、糖鎖付加の受けない大腸菌で産生しても酵素活性が維持されていた。

 これらの結果は、種間で変化している糖鎖付加部位およびその近傍の変化で糖鎖を持たなくなった場合、その変化は糖鎖の有無で全体構造が変わらないと考えられる。糖鎖は立体構造の一部を担っていることが多いものの、その糖鎖を含めた構造解析は困難であることは現在も変わっていない。最近のAlfafoldによる立体構造予測にも糖鎖の寄与までは今のところ含まれていない。糖タンパク質の立体構造解析はいまだにほとんど達成されていない分野であるが、この糖鎖機能を代替えできるアミノ酸置換という考え方を利用することで、糖タンパク質に関しても正確な立体構造予測が可能になることが期待される。

研究内容_図.jpg
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